東京地方裁判所 昭和27年(ワ)4397号 判決
原告 久菱工業株式会社
被告 図南信用協同組合
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金百万円及びこれに対する昭和二十七年五月二十二日から右支払の済むまで年六分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、訴外小野寺健仁は昭和二十七年三月十九日、金額百万円満期同年五月二十日、支払地振出地共に東京都中央区、支払場所図南信用協同組合なる約束手形一通を原告に宛てて振り出し、被告はこれが手形保証をした。しかして、原告はその所持人として満期の翌日右手形を支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶されたのでここに、被告に対し右手形金と、これに対する支払呈示の翌日の昭和二十七年五月二十二日からその支払の済むまで、手形法所定の年六分の法定利息の支払を求めるため本訴に及んだ次第であると述べ、被告の抗弁に対し、本件手形に被告主張のような保証文言の記載のあることは認めるが、右文言は振出人が保証人に手形金を補償する態容を示す資金文句若しくは振出人の保証人に対する手形金償還債務について担保を供する旨の担保文句と解されるから、右記載はその記載だけが無効となるのであつて、被告の本件手形保証の無効を来たすものではないと述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として、原告の主張事実は全部認めるが、本件保証は手形に「御預金中の定期積立証券を見返り担保として此の分のみを引受保証致します」との文言を附記してなされたものである。すなわち、本件保証は本件手形振出人の小野寺が被告に対し定期預金をすることを条件とし、且つその限度で手形保証をするというのであるが、かような条件付手形保証は手形法の認めないところであるから無効である。仮に有効としても、右小野寺は被告に対し一銭の定期預金もしていないから、被告には本件手形金支払の義務はないと述べた。<立証省略>
三、理 由
原告主張の請求原因事実及び被告の本件手形保証が手形に被告主張のような記載をしてなされたものであることは当事者間に争がない。
原告は右記載は資金文句若しくは担保文句に過ぎないと主張するけれども、かような見解が曲解であつて、右記載が被告の手形保証債務の発生を振出人の被告に対する定期預金が手形の支払呈示の際に現存するという将来の不確定な事実すなわち条件にかからしめ、且つ、その範囲を預金の限度に制限する趣旨のものであることは文理解釈上疑問の余地がない。
よつてさような条件付手形保証の可否について按ずるに、手形法は、手形が一定の金額の支払を目的とする有価証券であつて、且つ、転々流通するものであることに鑑み、全体系的に、手形行為は手形金の確実な支払と手形の円滑な流通のためになされるものであることを指示しているが、条件はこの目的を害するものであるから、手形行為は一般に条件に親しまない行為であり、条件を手形面に記載してした手形行為は法律に特則のない限り無効と解するを相当とする。
手形保証が被保証人と同一の責任を負うものであることを理由として、被保証人の手形行為が有効である以上、条件付手形保証はその条件だけを無効として有効な保証と解すべきであるとの説をなす者もあり、この論者は、かくて手形はいよいよその信用と流通性を加えるものとするようであるが、この説にはにわかに賛成できない。けだし、手形面に債務負担の条件が明記されているにも拘らず、その条件の記載だけを無効とするのは、行為者の明示の意思を無視して行為者に加重な負担を強制する一方手形の取得者にはその予期以上の保護を与えることになり公平の原則に反するばかりでなく、そもそも、人的抗弁を認める法制の下でさような解釈をすることが、手形取得者にどれだけの利益をもたらし、又手形取引の円滑化に何程の貢献をし得るものであるかの根本問題について既に疑なきを得ないからである。
さすれば、被告の本件手形保証は無効と認める外はなく、その有効なことを前提とする原告の本訴請求は進んで他の判断をするまでもなく理由のないことが明瞭であるから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 田中盈)